Shin Takamatsu Architect and Associates Co.,Ltd. 株式会社高松伸建築設計事務所

  • Delicious House

好んでイタリア料理を食す。海外での仕事を手がけ始めて以来である。というのも、私は肉を食べない。子供の頃、一緒に眠るほど可愛がっていた牛が、祭りの日の食卓に上り、知らずして食べてしまって以来である。トラウマというところか。しかし、私は決してベジタリアンでもないし、酔っ払って気が付いたら生肉など貪っていたりするから、筋金入りのトラウマでもない。まあ、素面では少々荷が重いという程度だ。 ところで海外で肉を食べないとなると、これは少々難儀することになる。そもそもは棒パンが1本とワインが1瓶ありさえすればひどく御満悦であるからして、実はなんの不自由もありはしないのだが、そこは旅先である。ときにはちと奮発もしてみたい。ということで、勢いイタリア料理となる。今や、世界中どこを捜してもイタ飯屋の無い街は無いから、一旦そう決めてしまえば全く問題は無い。 イタリア料理がおいしいのは、なにも好物のトリュフやパスタばかりではない。イタリア料理を「食べる」というそのことが、実に美味なのである。生粋の京都人からすれば言語道断、傲岸不遜の極みではあろうが、それでも断じて言わせて頂くならば、京料理では決してこうはいかない。ときに「食べる」こと自体が苦痛でさえある。それに比べると、イタリア料理を「食べる」ということの、なんと心置きなく素敵なことか。 そう気付いて、はたと考え込むことがある。美しい住まいは山ほどあるが、果たして「住む」ことそのものが美味である住まいとはどんなものなんだろうと。それは使い易くて、快適で、きれいな「おうち」なんだろうか。いやいや俄には合点がゆかぬ。どうもそうは素直に問屋が卸さぬようだ。さて、今日もまたパスタを頬張りながらとくと考えることにしよう。 読売新聞2000年2月21日.(2000)

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