Shin Takamatsu Architect and Associates Co.,Ltd. 株式会社高松伸建築設計事務所

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用意した書類を配る。台北、クライアントのオフィス、24階建ての高層ビルの最上階プレゼンテーションルームである。社長を中央に総勢約20名が楕円のテーブルを囲む。なぜか皆異様に若い。まずは合図をするまで書類を開かぬよう伝える。静まり返ったところを見計らって、やおら模型と大版のコンピュータ・グラフィックスを中央のデスクに。的は社長のみ。他は問題ではない。戦術は古い。奇襲である。首領を狙う。したがって、たいていは一瞬にして勝敗が決する。唖然の顔、愕然の顔…。凍りついた社長の顔がやにわにほころぶ。私はそれを見逃さない。よし、決まりである。その瞬間に全てが始まる。頭首の気配がたちどころに周囲に伝染する。このスピードが早いほど素敵な組織だ。ここではそれが電撃的に早い。この若者達とは一緒にやれる、と思う。所用時間12分。結局用意した書類は使わない。事業性や経済性などはどうとでもなる。プロである。建築はなによりもイメージである。イメージが人を打ち、人に決断の勇気を与える。私は経験でそれを知っており、同時にそのような経験をこそ信じている。他に信じるものは無い。終了後、社長を中心に、模型や図面をひっくり返して激論が始まる。言葉は解らない。ただ熱気が度を越えて高まりつつあるのは解る。私はそれを楽しむ。建築家の至福の時である。そのために、目を血走らせてコンピューターにしがみつき、指を傷だらけにしながらミクロンの精度で模型を削る。 醒めやらぬまま夕食の席へ。社主はもともと煉瓦職人だと言う。30年で今の企業を築いたが、未だに職人であると手を見せる。硬さを知りつくして優しさを得た手だ。その手でハンマーのように私の肩を叩き、拳のように振りかざして語る。震災で多くの同胞を失った。我々は失意と悲しみの只中にある。しかしこの様な時こそ希望を築かねばならない。私をこのようにしてくれた人々のために、私を育ててくれた国のために。それが私の責務である…と。ウム、良い仕事になりそうだ。 共同通信社1999年10月22日.(1999)

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