Shin Takamatsu Architect and Associates Co.,Ltd. 株式会社高松伸建築設計事務所

  • Paris

パリを描くといつもこんなふうにヘロヘロになる。前夜のワインのせいではない。もちろんパリのせいである。ワインと言えば、で飲むワインが随一である。僕は断じて通などではないから中味を問う愚は犯さない。ワインはグラスで飲むものだ。そのグラスがここでは泣ける。ボウルグラス。大きさは顔がすっぽりと納まるほど。これがなんとパキンパキンに冷えている。その凍えた洗面器に、実にゆるりゆるりと白を注ぐ。サワリサワリと音を立てて溶けてゆく霜を追うように呻る。料理もたいしたものだ。もちろんイタリア料理である。僕は肉を食わない。フランス料理はもっと食わない。ともあれ前菜にはくれぐれも注意。テーブルに20ほどの料理を並べて、さあ好きなものを好きなだけ食えと言う。つい食べすぎて後が続かない……ということになる。少なくとも僕はいつもそうなる。従って僕は前菜しか知らない。のワインと前菜……パリの醍醐味のひとつである。パリは「醍醐味」が似合う街だ。 『陽のかたち』.筑摩書房.(1995)

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