Shin Takamatsu Architect and Associates Co.,Ltd. 株式会社高松伸建築設計事務所

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建築を設計する作業過程の中で、遅ればせながらCG(コンピューター・グラフィック)の占める役割が急速に大きくなりつつある。私のオフィスでも、静止画像による初歩的なチェックに使用するものから、アクターとしての私自身がシミュレートされた空間内を自在に動き回るプレゼンテーション用のものまで、種々の可能性を試しているのだが、長い間紙と鉛筆との気まぐれな蜜月を楽しんできた者にとって、それは実に豊かな刺激的示唆を含む局面ではある。この数と記号と情報による光のシステムの中では、ほとんどあらゆる空間の生成と変容が瞬時にして作動し、謂わば神の視点から一挙に世界を俯瞰することさえ可能となる。ここでは、我々が信じて疑いもしなかった建築性の概念が、ことごとく再喚問されることになる。というより、建築という言葉さえも、不断に波動する場に翻弄されつつ、その都度定義を要請され続けることになる。開けばCGの空間に直接身体的に介入するシステムさえ開発中であるという。つまり我々自身がもはや文字通り「器官なき身体」化しつつあることによって、通事的で安定した時間と、それによってかろうじて架構されることのできた空間の概念がこのところ急激に改変を迫られていると言ってよい。「共時性」「透明性」「散逸性」「非在性」といった言葉の圏域の中に、「速度の空間」とでも呼ぶべき概念が急速に浮上し始める。コールハースによるリール計画やカールスルーエのアート&メディアセンターに見る「問題と解法のショート・サーキット」。ホールのミネソタ大学建築学部増築案における「関係のサイクロトロン的融合」。チュミによる「瞬間の継起的湧出」とでも言うべきオランダ・フロニンゲンのヴィデオ・ライブラリープロジェクト、そしてペローのフランス図書館やソレールのパリ国際会議場、それにヌーヴェルの無限の塔など、例を挙げつらえば枚挙にいとまが無いほどであるが、そのようなプロジェクト群が指し示す視界の中に、それはおそらく広角的に捉えられており、空間はそこではおしなべてスピーディな偏在性の形成を促すことを機能とする存在として措定され始めている。100万分の1秒の速度が建築を決定するディメンションに介入し始めることによって、今後全く新しい空間の様態が陸続と開発されるであろうことは想像に難くない。そこでは、濃度や強度や輝度といった物理学の用語が空間を語るための有効な表記法になるであろう。もしかしたら、見慣れた古典的秩序をまといつつ、自らの野性を極化した超合理主義的なるものの析出に立ち会うことができるかもしれないという禍々しい予感さえ私には確実にある。 『現代デザイン事典』.平凡社.(1992)

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