Shin Takamatsu Architect and Associates Co.,Ltd. 株式会社高松伸建築設計事務所

  • Freedom

27才で独立した。ほぼ3年間は全く仕事が無かった。助手1名、事務員1名。ダシール・ハメットやロバート・パーカーに出てくる探偵の事務所なら、仕事が無いなら無いで、次の冒険と道ならぬロマンスなどに紫煙をくゆらせつつ思いを馳せるところなれど、私の場合は設計事務所である。仕事が無いということは思いを馳せるものが無いというこにつきる。ところで、探偵業もそうだが、設計業も分類すると自由業ということになるらしい。さて、しからば自由業とは一体何か。ちなみに日本語大辞典なぞ繙くと、「人に雇われず、勤務時間等の制約を受けずに、専門的な知識や才能に基づく営利職業―リベラル・プロフェッション」とある。例として弁護士、作家、開業医など。実にリベラル(大まか)である。それにしてもなんと頼りない定義であることか。読めば読むほど不安になり、考えれば考えるほど寄る辺ない気分になる。しかも例に探偵業や建築家は無い。実にリベラル(寛大)である。あれから20年余。今はその「頼りなさ」がこの仕事の本質だということをよく知っている。日々の「不安」や「寄る辺なさ」が創り続けることの原動力であることをよく知っている。この建築は果して是か非か。実に不安である。不安であるからこそ創る。この建築は独創的か。独創は本来的に寄る辺ない。だから創る。しかし当時はそんなことなど露知らない。自由業の自由とは、まるで小説の中の探偵のような「生きるも自由、死ぬも自由」などと考えて、すっかり開き直っていたものだ。 毎年数人の若者達が独立を期して事務所を去ってゆく。その際に、私は必ずこういって脅すことにしている。 「これからは死ぬも生きるも君の自由だということだ。」…と。 東京新聞2000年7月12日夕刊.(2000)

一覧に戻る