Shin Takamatsu Architect and Associates Co.,Ltd. 株式会社高松伸建築設計事務所

  • X-day

二年ぶりのバルセロナである。雨上がり。さて、バルセロナと言えばもちろんガウディ。ガウディと言えば件の「サグラ・ダ・ファミリア」である。で、チェック・インもそこそこに駆けつけた。バルセロナの一日はいつもここから始める。というのも、御存知のように、この教会は未だに工事中であり、一説によると完成までゆうに二百年を要するとのこと。ということで、まずはその様子を確認して安堵するからである。なにやらせわしく生きることが、生きているということのほとんど唯一の証しだったりする、そういう毎日を尻目にしてしまえるからである。ところがである。今回はちと様子がおかしい。身廊もアプスも、筋くれだった時間の手で永遠を摺り込まれたように相も変わらず黒々とそびえ立って、せちがらさを額に貼りつけてポカンと見上げる私達を、いつものようにせせら笑っている。が、しかし、どこかおかしい。立ちつくすこと数刻、私は、はたと気がついた。なんとクレーンが動いているではないか。いつもは身廊にどっかりと腰を据え、永遠の工事中を永遠に知らしめることだけがその役割のようなクレーンが、うなりを上げて働いているではないか。たまげた。なおかつ、よくよく見ると、二年前にはほとんどその片鱗すら無かった南翼廊が、今やすっくりと立ち上がりつつあるではないか。私は心底あわてた。私の予定ではこの工事は決して進んではいけないのである。ガウディのこの建築だけは、竣工などという栄えある日を迎えてはならないのである。決して完成しないことが、完成することよりもはるかに大きな希望を人々に与える建築。その建築が、ひょっとしたら完成するかもしれないという事実を目前にして、雨あがりのバルセロナで私は色を失った。 東京新聞2000年9月6日.(2000)

一覧に戻る