Shin Takamatsu Architect and Associates Co.,Ltd. 株式会社高松伸建築設計事務所

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学生達はコンピューターで建築を創る。コンピューターで建築を考え、コンピューターで建築を描く。そういう時代である。不思議でもなんでもない。だが私は大いに不思議である。で、不思議な私は、ある時ふと思いついて、学生達にコンピューターを使うことを一切禁じることにした。つまり、彼等から建築を創る唯一の手だてを奪ったのである。さあ困った。手で建築を創らねばならない。ところで、古来、名建築家はおしなべて名スケッチ家であった。中にはスケッチの方が実物をはるかに凌ぐ建築家さえいた。 ブルーノ・タウトやハンス・シャローンがそうである。とまれ、建築家達は、膨大な量の紙片の上で、延々とう倦むこと無く手を運び続けることによって建築を創ってきた。さて、だとしたら、スケッチは、建築家達が勝手気侭にその中で遊ぶことができる世界か。とんでもない。まずたった一本の真っすぐな線、これが描けない。ましてや正確な円や多角形など論外である。如何に正しい直線や円弧を思い描こうと、手はことごとくそれを裏切る。百もの線と千もの円が、紙の上をのたうち回る。実に不自由である。翻ってコンピューターはどうか。なるほど、正確無比なる円や直線が、クリックひとつで瞬時に現われる。唯一の線、唯一の円がたちどころに飛び出してくる。素敵である。がしかし、それもまた相当不自由である・・・と筆者は思う。なぜなら、いつも正しい解がひとつしかないことほど不自由なことはない…と筆者は考えるからである。さてさてなんとも困り果てた。とうとう手も不自由ならコンピューターも不自由であることになってしまった。ふらつき、戸惑い、ためらう不自由。瞬時に紛れもない正しさを得る不自由。さて若者達は、このふたつの不自由の間の何処に自由を見出すか。 東京新聞2000年11月8日夕刊.(2000)

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