Shin Takamatsu Architect and Associates Co.,Ltd. 株式会社高松伸建築設計事務所

シーウッドホテル

来間島は、沖縄本島の南西290kmに位置する宮古島の、そのまた南西の洋上にぽつねんと浮かぶ面積3km2弱、全周9kmほどの島であり、宮古島本島とは1.7kmの一本の真っすぐな農道橋によって結ばれている。 初めてその来間島を訪れたのは2013年の夏であった。島の一画に建つことになるリゾートホテルを設計するためである。沖縄特有のスペクトルを帯びた初夏の陽を無数の粒子へと分光するかの如き、まるで青い真珠を敷き詰めたような海面を割って、小さなボートで近づいた島は、紛れもない沖縄特有の島嶼的地勢の様相を露わにしつつも、同時に、どことなく全く異なる脈動で息づいているかのようであった。まるで直に手を触れることができるような、妙に生々しいその感触に誘われるまま、奇怪なコーラルストーンの地道に足を取られ、混生の茨に行く手をはばまれつつ、異様な静寂の中、昼下りの数刻島をさ迷った。そして、沈む陽に引きずり込まれるように、次第に強まる潮の香に誘われつつ、敷地の西端の密生したギンネムの帳を長間浜へと突き抜けた刹那、いきなりそれは現れた。そう、世界が。我々の存在を一瞬にして丸ごとその時空の一部へと荘厳する、まるで咆哮する宇宙の如き世界が。 もとより人智の介在が馴化を許す領域でもなく、かといって神々の降臨によってのみ浄化される空域でもない、その歴然と実態的であるところのその圏域を、設計者は未だに「聖域」以外の言葉で言表し得ない為体である。にしても、おそらく数億年の時を経つつこの島の全てを制動し続けたに違いないこの「聖域」なるものを、石や鉄など、聖なるものとはほど遠い事物よって組み上げ、建築をして顕現せしめる以外に、この地における設計者の使命はあり得ないのだということを、初めて訪れた夕刻、つるべ落としの光茫が透明な深淵から初源の美を湧きたたせる海景を前にして一瞬にして知ったのである。日没の軸を介して南北両翼に展開するところの古典的なまでに整除されたヴィラ群の配列。無辺の時をアーチの形に鋳造するかのごときセンターハウスの架構。地霊の膂力による建造に比肩せんとするレストラン棟の竜宮の造形。これらはその全てがかかる使命の実践の過程で析出されたもの達だ。とはいえ、それらの全ては今はただ待ち受けるもの達でしかない。 その満を持して待つ全てに、未だ見ぬ空間を建立し、未だ知らぬ時を刻印するのが、他ならぬここを訪れることになる人々であることはあらためて言うまでもない。 そう、ここでは「聖域」の創生が待たれているのだ。誤解を恐れることなく言うならば、そう、ここではひとつの神話の誕生こそが待たれているのだ。

所在地
規模
敷地面積
建築面積
延床面積
竣工年
用途
: 沖縄県 宮古島市
: 地下1階 地上3階
: 135,753m2
: 13,453m2
: 18.086m2
: 2020
: リゾートホテル