客席数400席を備えるクラシック音楽専用ホールである。設計に着手するにあたり、西欧クラシック音楽とはそれほど縁の無い日本の一地方都市において、この種のホールがそもそもどれほどの頻度で使用され得るであろうかという素朴な疑問があった。加えて日本一の漁獲量を誇る漁港であるがゆえの、この都市特有の問題が存在した。即ち、あまりにも護岸工事が完璧であるため、子供達が水に触れることのできる場所が、存在しないという現実である。完成した建築は、大きくはこのふたつの問題への応答を率直に反映している。実質的に音楽ホールとして使用される空間は極限まできり詰められ、残された全ては水と戯れ、花を愛で、庭園を巡ることのできる空間としてしつらえられている。設計者にとっては、建築の意匠というより、むしろ風景の意匠が主題であったと言っても過言ではない。完成後、いつのまにか人々はこの場所をシンフォニー・ガーデンと呼ぶようになった。設計者としては我が意を得たりというところである。
境港市文化ホール シンフォニーガーデン
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