写真家植田正治生誕の地に、彼の作品を半永久的に保存・展示する美術館の建設が企画され、植田の意向に沿って町は我々を設計者として指名した。名峰大山の麓のなだらかなすそ野の一画という、孤高の写真家の美術館としては願ってもない敷地である。ゆえに、設計者は新たな建築の存在がその絶景と如何に対峙し、かつ如何なる風景を相補的に形成し得るかという不可避の課題に当初から直面することになった。結果、美術館というビルディングタイプが要請する巨大な量塊を避け、展示室を分断することによって群的なシルエットを形成するとともに、大山を軸としたゆるやかなカーヴ状の壁でこの群形を囲った。集落的なたたずまいによる圧倒的な自然への介在とでも言おうか。展示室間におかれた水面が美術館を巡る者に逆さに写し撮られた美峰の光景を提供することになる。既に在る風景が新たなる風景への扉をひそかに開くことになる。植田はこの美術館と自らの作品「少女四態」との共通性にいたく喜んだ。光栄である。
伯耆町植田正治写真美術館
タイトル