中国天津市が建設する博物館の設計競技への参加を求められた。とはいえ、競技の要項を入手して唖然とすることになった。設計の指針となるプログラムが全く存在していないに等しかったからである。即ち、収蔵品の内容や量、運営システムはともかく、なんと博物館の規模や建設費に関する情報さえ皆無。加えて、あろうことか敷地さえ確定的なものではないとのこと。中国の事情からしてこの程度のことはそれほど驚くにはあたらないにしても、心底愕然としたのは設計に関するほとんど唯一の条件を示す一文。そこにはこうしたためてあったのである。「中国天津市の威信を体現する建築でなくてはならない」・・・と。途方に暮れつつも、この言葉は真正面から受けることにした。考えてみればかかる要請ほど建築家冥利に尽きることはない。ということで、思いっきり想像力の翼をはばたかせることにした。なにを隠そうその翼を用意してくれたのは敷地視察の際現地の大気汚染の空を飛ぶ一羽の鳥であった。その白鳥に似た鳥を目にした刹那、一気に建築が誕生した。おそらく後にも先にもこのようにして建築家として働くことは二度とない。設計案を「SWANIUM」と命名して提出した。ちなみに設計競技審査委員会が公表した「SWANIUM」に関する講評もまたたった一行。「あまりにも美しい」。
天津博物館
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