Shin Takamatsu Architect & Associates

 

「建築を設計せよ、使用方法は建築の完成後決定する」という要請が、唯一クライアントから設計者に提示されたものであった。「君にとって建築とはいかなるものぞ。」という哲学的命題を突きつけられたに等しい。かくの如き抽象的難題を前に、三百年に近い歴史を持つこの老舗に残る様々な慣習、記憶・・・そして無限に思えるクライアントとの対話の中で、空間と造形を模索した。町並みに対面して自立するファサード、通りと直交する軸に沿って濃度を高めてゆく奥深い空間の配列法、細部を決定する精妙な寸法体系等々は、歴史と寄り添いつつ綿々と鍛えられてきた抽象的思考の中から探りあてた具象的処方を、あくまでも新しい建築のあり方にむけて開放的に適用した結果である 。歴史とともに豊かに息づきつつ、しかし同時に未来をも刺激する両義的な能力を持つことこそ建築に求められる重要な機能のひとつであると確信するに至ったからである。私にとっては決定的な意味を持つ仕事になった。

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